最近の自動車保険では当たり前に付いていると思われている『示談交渉サービス』ですが、実は『示談交渉サービス』を受けられない場合があることをご存知でしょうか?
今回解説する4事例の場合は、自動車保険にセットされている示談交渉サービスを受けることは出来ません。
但し、3つの事例については、自動車保険の契約内容に注意すれば、示談交渉が受けられないという事態を回避することができます。
今回は、示談交渉が受けられない4つのパターンとそれを回避する方法について解説します。参考にして頂き、「示談交渉サービスが受けられない!?」とならないようにして頂ければと思います。
1.示談交渉サービスとは?
示談交渉サービスとは、万が一契約者(被保険者)が法律上の損害賠償責任が発生する事故を起こした場合に、契約者(被保険者)に代わって保険会社が事故の過失割合等について相手方や相手方保険会社との示談交渉を代行するサービスです。
示談交渉サービスは、全ての保険で提供されているわけではなく、自動車保険や自転車保険、個人賠償責任特約等の一部の保険や特約にセットされているサービスです。
なお、保険会社によっては、示談代行サービスと呼んでいる会社もあります。
2.他人のために示談交渉ができるのは弁護士のみ
実は他人のために報酬を受け取り示談交渉ができるのは弁護士資格を持った人だけです。
【弁護士法 第72条】
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
仮に、弁護士資格が無い状態で、報酬を受け取り他人のために示談交渉を行えば、弁護士法に抵触します。
自動車保険や一部の保険については、保険会社が示談交渉することが認められていますが、本来、保険会社が契約者(被保険者)のために示談交渉することはできません。
実際、企業等が加入する賠償責任保険(請負業者賠償責任保険等)には、示談交渉サービスはなく、原則、契約者(被保険者)が自ら被害者と示談交渉を行う必要があります。
3.示談交渉サービスの必要性
自動車保険の対人・対物賠償保険で補償される部分は、法律上の損害賠償責任がある部分のみです。例えば、自動車事故で他人の車を壊してしまった場合、自動車保険から保険金として支払われる額は、相手の自動車の時価額が限度となります。
事故相手が古い車に乗っているにも関わらず、新車に買い替えろ等の要求をしてきても、それは法律上の損害賠償責任の範囲を超えているので、賠償する義務もありませんし、保険会社も補償してくれません。
上記のような点を一般の方が事故相手と話しても解決(示談)できないか、解決(示談)までに非常に長い時間を必要とする可能性があります。
また、古い車を大事に乗っている方が事故相手の場合、車の時価は50万円ですが、修理費は70万円かかるというようなこともあります。
事故相手が大事にしている車だから修理して乗りたいと言っても対物賠償責任保険から支払われる保険金は、法律上の損害賠償責任額である時価額50万円が限度となります(対物超過修理費用特約をセットしている場合を除く)。
『対物超過修理費用も「無制限」が選べる?』
単独事故で、相手がいない場合を除いては、事故相手の感情もあるので、素人同士の話し合い(示談交渉)は非常に困難を極めるでしょう。
また、「当り屋」のように交通事故を食い物にする悪い人達もいるので、そのような場合に保険会社の担当者が示談交渉してくれるという点は非常にありがたいと思います。
4.示談交渉サービスが受けらない4つのパターン
上記の通り、示談交渉サービスは非常にありがたいサービスですが、示談交渉サービスが受けられないケースが存在します。
示談交渉サービスが受けられないケースとは、どのような場合でしょうか。
4-1.補償の対象となる方(被保険者)に責任がない場合
被保険者(補償の対象者)に法律上の損害賠償責任が発生しない場合、つまり、被保険者に過失(責任)が無い事故の場合、保険会社は事故の相手方と示談交渉を行うことはできません。
例えば、車が交差点で停まっている状態で後ろから追突された場合のような事故で、相手の過失が100%で被保険者の過失(責任)がゼロの場合です。
このようなもらい事故の場合に事故の相手(加害者)が賠償に応じない等の問題が発生した場合、保険会社は事故の相手と示談交渉をすることが出来ません。これは保険会社の怠慢ではなく、被保険者に過失がない場合は示談交渉することが許されていないからです。
被保険者に過失がない場合に保険会社が加害者側との示談交渉を代行すると、弁護士法(第72条 非弁活動の禁止)に抵触することになります。
よって、契約者(被保険者)が自ら示談交渉するか示談交渉を弁護士に委任する必要があります。弁護士費用特約を付帯していれば、事故の相手方に法律上の損害賠償請求をするための弁護士費用や法律相談費用等が300万円まで補償されます。
『弁護士費用特約の補償内容は保険会社によって異なる!?』
4-2.保険会社との交渉について、相手方の同意が得られない場合
事故の相手が、保険会社との示談交渉に応じない場合も保険会社は示談交渉をすることが出来ません。
この場合は、相手があることなので、どうしようもありません。自分で示談交渉するか、弁護士に示談交渉を依頼するしかありません。
4-3.損害賠償額が、保険金額を明らかに超えている場合
損害賠償額が加入している自動車保険の補償額と比べて明らかに超えている場合も保険会社は示談交渉をしません。
例えば、『対物賠償を無制限にしない場合の3つの問題点』でご紹介したように対物賠償責任保険の保険金額(補償額)を1,000万円にしていて、1億円等の高額な賠償額を請求されるような対物事故を起こした場合などがこれに該当します。
対人賠償責任保険、対物賠償責任保険の保険金額(補償額)を無制限にしておけば、このような事例は回避できます。
4-4.自賠責保険(共済)に未加入の場合
自賠責保険(共済)に未加入の場合、『自賠責保険(共済)に加入していないと発生する4つの問題点』でご説明した通り、原則として自賠責の補償額を超えるまでは、保険会社は示談交渉を行いません。
保険会社によっては、自賠責保険(共済)に未加入という時点で示談交渉をしないとしている会社もあります。
自動車保険(任意保険)に加入していれば、自賠責保険(共済)に加入する必要がないと勘違いされている方がいますが、自動車保険に加入していても自賠責保険(共済)に加入してないと、示談交渉サービスが受けられない以外にもデメリットが発生しますので、自賠責保険の加入漏れにはご注意ください。
まとめ
上記以外にも保険会社が示談交渉しない下記のような場合がありますが、大きなポイントとなるのは、上記4パターンです。
- 損害賠償額が明らかに自賠責保険などの支払限度額内でおさまる対人事故
- 被保険者(補償の対象者)が正当な理由なく保険会社への協力を拒んだ場合
- 損害賠償額が明らかに対物賠償の免責金額(自己負担額)内でおさまる事故 etc
今回ご紹介した4パターンの中で4-2については、相手があることなのでどうしようもありませんが、4-1、4-3、4-4については契約の内容や特約を付帯すること等によって、保険会社が示談交渉をしてくれないという事態を回避することが出来ます。
自動車保険の契約時や更改時に参考にして頂ければと思います。
最終更新日:2019年1月17日
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