2015年以降に生命保険会社が一時払の貯蓄保険の販売を停止したり、予定利率を引き下げ保険料を値上げする動きが広がりました。
販売停止や予定利率の引下げによる保険料値上げの理由は、2014年10月の日本銀行の追加緩和で生命保険会社が主な運用先としている超長期国債の利回り低下が加速したからです。
今回は、なぜ貯蓄型商品が販売停止、保険料値上げに追い込まれたかについて下記ポイントを確認しながら解説するとともに、今後の見通しについて考えてみたいと思います。
・予定利率とは?
・予定利率が下がるとなぜ保険料が上がるのか?
・予定利率と標準利率の関係とは?
1.販売停止、保険料を値上した商品
まずは、2015年に販売停止や保険料を値上げした主な商品についてご紹介します。
1)販売停止
明治安田生命
一時払い個人年金保険
第一生命
ソニー生命
一時払い養老保険
2)保険料引き上げ
日本生命
東京海上日動あんしん生命
一時払い終身保険
2.保険料引き上げの内容
今回は、日本生命の一時払終身保険を例に保険料引き上げ(平成27年2月1日)の内容をご紹介したいと思います。
1)予定利率の引き下げ
日本生命は、運用環境、市中金利の動向等の状況を踏まえて一時払終身保険の予定利率を平成27年2月1日より引き下げました。
改定前:1.00% ⇒ 改定後0.95%(△0.05%)
尚、ニッセイは平成27年4月には0.85%、更に平成27年7月にも0.75%に予定利率を引き下げています。
2)保険料例
予定利率が引き下げになったことにより保険料は引き上げになりました。予定利率引き下げ前と引き下げ後の保険料比較は下表の通りです。
商品:一時払終身
死亡保険金:1,000万円
【男性 ~2015年1月31日まで】
契約 年齢 |
一時払保険料 | 10年後 解約払戻金 |
返戻率 |
---|---|---|---|
30歳 | 7,157,800円 | 744.5万円 | 104.0% |
35歳 | 7,396,600円 | 770.0万円 | 104.1% |
40歳 | 7,644,600円 | 795.9万円 | 104.1% |
45歳 | 7,899,600円 | 821.9万円 | 104.0% |
50歳 | 8,158,600円 | 847.9万円 | 103.9% |
55歳 | 8,418,700円 | 873.8万円 | 103.8% |
60歳 | 8,679,200円 | 898.4万円 | 103.5% |
65歳 | 8,937,900円 | 921.3万円 | 103.0% |
70歳 | 9,184,100円 | 941.7万円 | 102.5% |
⇓
【男性 2015年2月1日~】
契約 年齢 |
一時払保険料 | 10年後 解約払戻金 |
返戻率 |
---|---|---|---|
30歳 | 7,314,100円 | 758.1万円 | 103.6% |
35歳 | 7,543,200円 | 782.4万円 | 103.7% |
40歳 | 7,780,700円 | 807.1万円 | 103.7% |
45歳 | 8,024,300円 | 831.9万円 | 103.6% |
50歳 | 8,271,100円 | 856.6万円 | 103.5% |
55歳 | 8,518,600円 | 881.1万円 | 103.4% |
60歳 | 8,765,900円 | 904.4万円 | 103.1% |
65歳 | 9,011,100円 | 926.0万円 | 102.7% |
70歳 | 9,244,000円 | 945.3万円 | 102.2% |
【女性 ~2015年1月31日まで】
契約 年齢 |
一時払保険料 | 10年後 解約払戻金 |
返戻率 |
---|---|---|---|
30歳 | 6,852,900円 | 711.6万円 | 103.8% |
35歳 | 7,080,200円 | 736.1万円 | 103.9% |
40歳 | 7,316,000円 | 761.2万円 | 104.0% |
45歳 | 7,560,600円 | 786.9万円 | 104.0% |
50歳 | 7,811,700円 | 813.5万円 | 104.1% |
55歳 | 8,068,500円 | 840.7万円 | 104.2% |
60歳 | 8,334,500円 | 868.1万円 | 104.1% |
65歳 | 8,607,400円 | 895.1万円 | 103.9% |
70歳 | 8,881,400円 | 920.5万円 | 103.6% |
⇓
【女性 2015年2月1日~】
契約 年齢 |
一時払保険料 | 10年後 解約払戻金 |
返戻率 |
---|---|---|---|
30歳 | 7,021,100円 | 726.6万円 | 103.4% |
35歳 | 7,239,800円 | 750.1万円 | 103.6% |
40歳 | 7,466,300円 | 774.1万円 | 103.6% |
45歳 | 7,700,600円 | 798.6万円 | 103.7% |
50歳 | 7,940,600円 | 823.9万円 | 103.7% |
55歳 | 8,185,700円 | 849.8万円 | 103.8% |
60歳 | 8,438,900円 | 875.8万円 | 103.7% |
65歳 | 8,698,100円 | 901.3万円 | 103.6% |
70歳 | 8,957,800円 | 925.3万円 | 103.3% |
保険料が上がることにより、解約返戻金も増えていますが、返戻率※で比較すると下がっていることが分かります。
一時払い終身保険は利回りが魅力の1つである商品ですが、保険料が上がると返戻率が下がり、魅力が下がってしまいます。
※解約返戻率=解約返戻金÷払込保険料累計×100
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3.なぜ予定利率が下がると保険料が上がるのか?
なぜ、貯蓄型保険は販売停止や保険料の引き上げを行う必要がるのでしょうか?
保険会社は契約者から預かった保険料を国債等の有価証券で運用しています。国債の利回りが下がることにより、金融庁が計算式を定めている標準利率が下がります。
その標準利率をもとに各保険会社は契約者に約束している予定利率を決めているので、予定利率を引き下げる必要が発生します。
予定利率が下がると保険料を引き上げる必要があります。予定利率が下がると、保険料が上がる理由を事例を使ってご説明します。
◆10年後に100万円の資金を準備するのに必要な金額
金利3%の場合:約74万円
金利1%の場合:約90万円
上記のように運用できる予定の金利が高ければ、元金は少なくて済みます。つまり、一時払保険料は金利が高いほど少なくていいことになります。
今回は、予定利率が下がるので、契約者から預かる保険料が上がるということになります。
まとめると下記の通りになります。
●予定利率が下がる→保険料が上がる
●予定利率が上がる→保険料が下がる
4.標準利率と予定利率
簡単に標準利率と予定利率について解説しておきます。
1)標準利率とは?
標準利率とは、金融庁が計算式を定めています。国債の利回りを基に決定します。
2)予定利率とは?
予定利率とは、生命保険会社が契約者に約束する運用利回りです。
標準利率をもとに保険会社決定するもので、この率により保険料が上がったり、下がったりします。予定利率以外にも予定死亡率や予定事業費率などにより保険料は左右されます。
生命保険商品の多くは約束している予定利率で固定されるので、実際の運用が約束した利回りより悪い場合、その差額を保険会社が穴埋めする必要があります。
これを逆ザヤといいます。逆ザヤは保険会社の収益を圧迫します。
逆に約束した予定利率より運用利回りが良かった場合は、利差益といって契約者に配当という形で還元されます(配当の無い商品もあります)。
まとめ
2016年1月29日に日銀はマイナス金利の導入を決定しました。今後も日銀は金融緩和を継続するでしょうから標準利率は下がることはあっても当分上がることはないと考えられます。
今後、貯蓄型の一時払商品は販売停止、保険料の値上げを各社とも検討せざるを得ないでしょう。
貯蓄型商品は運用利回りが大きな魅了の1つなので、現状の経済情勢が続けば、販売停止に追い込まれる商品も出てくると予想できます。
No.162