2015年に生活を共にする同性カップルを夫婦と同じような関係の「パートナー」と認める制度が、東京都渋谷区と世田谷区で始まりました。
渋谷区は同性カップルに「パートナーシップ証明書」を交付し、世田谷区では、同性カップルの2人が、「パートナーシップ宣誓書」を提出すれば、区長が「受領証」を発行するというものです。また、兵庫県宝塚市でも同様の制度が始まっています。
法律上の効果はないそうですが、性的少数者(LGBT)を支援する動きが各地で広がっています。
渋谷区や世田谷区等の制度を受けて、保険業界も同性パートナーの方達に対応する動きがありますので、ご紹介します。
1.LGBTとは?
LGBTとは、L:レズビアン(女性同性愛者)、G:ゲイ(男性同性愛者)、B:バイセクシュアル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(心と体の性の不一致)の頭文字をとった、性的マイノリティ(少数者)を限定的に指す言葉です。
LGBTに関して社会的な関心も高まっていて、行政および各企業ではLGBTに関する各種取組みが広がっています。
2.損害保険会社のLGBTに関する取り組み
保険業界でもLGBTに関する取組が始まっています。東京海上日動は事実上婚姻関係と同様の事情にある同性間のパートナーを異性間のパートナーと同様の取り扱いとする改定を2017年1月から実施しました。
具体的には配偶者に関する規定を変更し、事実上婚姻関係と同様の事情にある同性間のパートナーを「配偶者」に含むことになります。
但し、本改定に伴い、制度の悪用を防ぐため、契約時または事故時において、パートナー間の関係性を確認するため、確認資料(自認書や住民票)の提出が必要な場合があります。
尚、渋谷区のパートナーシップ証明書のように、行政が発行し、法的な効力をもつ証明書があれば「自認書兼同意書」の代替資料とすることが可能です。
2017年1月に住まいの保険(火災保険)が改定され、上記内容が反映されています。その後は、各商品の改定のタイミングで上記内容が反映されています。
東京海上日動以外の損害保険ジャパン日本興亜、三井住友海上火災、あいおいニッセイ同和等の保険会社でも同様の改定が行われ、LGBTに関する取り組みが進んでいます。
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3.同性パートナーを「配偶者」とする改定
さて、今回ご紹介する東京海上日動の改定で各損害保険商品にはどのような影響があるのかを確認してみたいと思います。主な影響は以下の通りです。
1)運転者限定特約の範囲
自動車保険の運転者限定特約とは補償される運転者の範囲を限定する特約です。補償される運転者の範囲を制限することにより、保険料が割引となります。
運転者限定特約のタイプは保険会社によって異なりますが、下記のようなタイプがあります。
【運転者限定特約の種類】
①本人限定
②本人・配偶者限定
③家族限定
運転者の限定範囲を狭めるほど保険料の割引額も大きくなります。
上記の「本人・配偶者限定」等に同性パートナーが含まれることになります。改定前は、同性パートナーは他人になるので、2人とも運転する場合は、運転者を限定することはできませんが、上記改定後は、運転者が同性パートナーの2人だけの場合、「本人・配偶者限定」が利用できます。
2)自動車保険の年齢条件
自動車保険の年齢条件は配偶者も運転する場合には、配偶者の年齢も考慮して年齢条件を設定する必要があります。
『自動車保険の年齢条件設定方法とは?確認すべきべき4つのポイント』
今回の改定で、同性パートナーにも年齢条件が適用されることになります。
例えば、記名被保険者が40歳でも同性のパートナーが29歳であれば、「26歳以上補償」を選択する必要があります。改定前までは同性パートナーは他人という扱いなので、同性パートナーに年齢条件を合わせる必要はありませんでした。
3)ノンフリート等級の引継の範囲
自動車保険の等級(割引)の引継については、下記記事でもご紹介した通り、改定前は下記の方にしか引き継ぐことができません。
『自動車保険の等級(割引)を知人に譲ることができるか?』
【ノンフリート等級を継承できる方の範囲】
・記名被保険者の配偶者(内縁関係でも可)
・記名被保険者の同居の親族
・配偶者の同居の親族
改定によって、自動車保険のノンフリート等級(割引)を引継げる範囲が同性パートナーにまで広がることになります。
4)補償対象者の範囲拡大
補償対象者の範囲が同性パートナーまで拡大されます。
例えば、夫が保険契約すれば、妻も補償されるような保険や特約等があります。具体的には個人賠償責任保険は、補償範囲が下記の通りになります。
【個人賠償責任保険の補償対象者の範囲】
(1) 本人
(2) 本人の配偶者(内縁を含む。)
(3) 本人又はその配偶者の同居の親族
(4) 本人又はその配偶者の別居の未婚の子
個人賠償責任保険の例だと、夫が同保険を契約すれば、その配偶者(事実婚含む)である妻も補償範囲に入ります。その補償範囲に同性パートナーも含まれます。
同性パートナーが補償範囲に含まれれば、どちらか1人が個人賠償責任保険を契約すれば、パートナーの2人ともが補償の対象になります。改定前までは、同性パートナー同士は他人ということで、1人ずつ加入する必要があります。
具体的には自転車保険の賠償部分(個人賠償責任補償)については、同性パートナーのどちらか一方が契約すれば、2人とも自転車での事故で相手にケガをさせたり、相手のモノを壊してしまった際の賠償責任が補償されることになります。
5)火災保険の家財
家財に対して火災保険を契約している場合、生計を共にする同性パートナーの家財も補償の対象に含まれるようになります。但し、同性パートナー分の家財についても、保険金額に加えて家財保険を契約しておく必要があります。
各種特約等の被保険者(補償対象者)に同性パートナーが含まれるようになるのは、今回の改定のメリットです。一方、自動車保険の年齢条件に関しては、同性パートナーの方の年齢が若い場合は年齢条件を下げる必要があり、保険料が上がる可能性があるので、デメリットになります。
しかし、今回の改定に関しては、全般的に考えるとメリットの方が大きいと思います。
4.生命保険会社のLGBTに関する取り組み
生命保険会社も「パートナーシップ証明書」等があれば、生命保険の保険金受取人に同性パートナーを指定可能にする対応を行っています。ニッセイ(日本生命)、オリックス、ジブラルタ、アフラック等が同性パートナーを受取人に指定できる対応を行っています。
下記記事でご紹介した通り、生命保険の受取人は誰でも指定できるわけではなく、モラルリスクの観点から原則、被保険者の配偶者と2親等以内の血族に限定されていましたが、その範囲を同性パートナーにまで広げる対応を行っています。
『死亡保険金受取人は誰でも指定できる?』
これは新規の契約だけでなく、ジブラルタ生命などは既存の契約でも受取人を同性パートナーに変更可能にするそうです。
同性パートナーを受取人に指定できる対応は他の生命保険会社にも広がっていくでしょう。
5.同性パートナーには相続権がない!?
下記記事で事実婚のパートナーには相続権が無いことをご紹介しましたが、同性パートナーについても相続権がないことに注意が必要です。
『内縁の妻(夫)に相続権はない?』
法律上の婚姻関係がなければ、相続権はありませんので、事実婚の相手や同性パートナーに財産を遺したければ、遺言の作成が必要になります。
若しくは内縁の妻(夫)や同性パートナーを生命保険の保険金受取人に指定すれば、保険金は原則、保険金受取人の固有の財産となりますので、遺産分割対象外財産として事実婚の相手や同性パートナーに保険金という形で財産を遺すことが可能です。
まとめ
上記の通り、保険業界では、同性カップルに対する対応が進んでいます。同性パートナーは今後、内縁関係の夫婦と同様の扱いになっていくと思われます。
保険業界でLGBTへの取り組みが進むことにより、保険の加入の仕方が変わる部分もありますので、保険の見直しも必要となります。
最終更新日:2019年3月8日
No.236