『なぜ日本では火災保険への加入が必要なのか?』で日本には失火法があるので、失火で隣家を類焼させても重大な過失がなければ、隣家の損害を賠償する責任はないとご説明しました。
しかし、賃貸住宅の場合、借りている部屋で火災を起こせば、その損害を修復し、原状回復して大家さん(オーナー)に返す必要があります。
今回は、賃貸住宅のオーナーへの損害賠償義務を補償する特約「借家人賠償責任補償特約(読み方:しゃっかにんばいしょうせきにんほしょうとくやく)」をご紹介します。
- 借家人賠償責任保険特約の補償内容とは?
- 借家人賠償責任保険特約で補償対象となる事故例とは?
- 賃貸マンションや賃貸アパートに入居する際に、なぜ、火災保険への加入が必要なのか?
- 賃貸物件の火災保険は、どのような契約(補償)内容にしておくべきなのか?
- 不動産会社に火災保険の加入をすすめられた際の注意点 など
上記のポイントについて解説します。
1.賃貸マンション・アパートを借りた人には原状回復義務がある
一般的に賃貸マンションや賃貸アパートについては、賃貸借契約で借主(部屋を借りる人)に原状回復義務が定められています。借主(部屋を借りる人)は、賃貸物件を出る際はオーナーに対して原状回復して部屋を返す義務があります。
さて、ここで「原状回復」の定義について疑問を感じる方も多いと思います。実際、賃貸物件を借りた側と貸した側で原状回復についてトラブルになることが多いため、平成10年3月に当時の建設省が原状回復の費用負担のあり方について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして取りまとめました。更に国土交通省が平成23年8月にガイドラインの改訂を行っています。
ガイドラインでは「原状回復」を以下のように定義しています。
「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」
上記のガイドランからも分かる通り原状回復とは、賃貸マンションや賃貸アパートを借りた人が借りた当時の状態に戻すことではありません。経年変化、通常の使用による損耗等の修繕費用は、賃料に含まれるものとされています。
2.失火法と債務不履行
賃貸マンションや賃貸アパートを借りた側が火災等を起こし、オーナーに原状で部屋を返せない場合は、債務不履行(民法第415条)となり賠償する義務が発生します。
冒頭でご説明した通り、失火法では重過失が無い限り、民法第709条(不法行為による損害賠償)は適用されないとなっていますが、民法第415条に失火法の適用はありません。
民法第415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
失火によって隣家に損害を与えてしまっても重大な過失がなければ、失火法により隣家に対して賠償する義務はありませんが、火災等によって借りている部屋を損傷した場合には、重大な過失があろうがなかろうが、賃貸住宅のオーナーに対しては債務不履行により賠償する責任を負うことになります。
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3.借家人賠償責任補償特約とは?|補償内容
借家人賠償責任補償特約は、賃貸住宅で、火災、破裂・爆発、水濡れ、盗難事故を起こし、貸主に対する法律上の賠償責任を負った場合に補償されます。
保険会社によっては、法律上の賠償責任が発生しない場合でも、貸主との契約に基づいて借用戸室を修理した場合の費用(修理費用)について補償する場合があります。
補償額については、保険会社によって異なる場合があり、補償限度額が2,000万円までの商品や1億円までという商品もあります。
原則、借家人賠償責任補償は特約なので火災保険にセットするかは契約者の選択となりますが、賃貸物件専用の火災保険の場合には、自動的に借家人賠償責任補償がセットされている場合もあります。
火災保険に借家人賠償責任補償特約をセットしておけば、債務不履行(民法第415条)によるオーナーへの賠償責任が補償されることになります。
4.借家人賠償責任補償特約で補償対象となる事故例
借家人賠償責任補償特約で補償対象となる事故例をご紹介します。
【事故例】
・ボヤを起こしてしまい、部屋の一角が燃えてしまった。
・洗濯機のホースが外れ周辺に水が漏れ、フローリングの取り換えが必要になった。
借家人賠償責任補償特約で補償対象外となる事故例
借家人賠償責任補償特約は、借りている部屋に損害を発生させた全ての事例で補償されるわけではない点に注意が必要です。
例えば、子供が遊んでいて壁に穴をあけてしまった場合等、損害の原因が火災、破裂・爆発、水濡れ、盗難事故ではない場合には、補償されませんので、ご注意ください。
ただし、東京海上日動や三井住友海上など、保険会社によっては、子供が遊んでいて壁に穴をあけてしまったような偶然な事故も借家人賠償責任補償特約で補償される場合があります。
5.借家人賠償責任補償単独での加入は不可、火災保険の特約としてセット可能
「借家人賠償責任補償特約」は火災保険の特約なので、火災保険の契約がなければ、同特約を付帯することはできません。原則、「借家人賠償責任補償特約」単独での契約はできません。
6.借家人賠償責任補償特約の特約保険料例
ある保険会社の賃貸マンションの場合の「借家人賠償責任補償特約」の試算例は下記の通りです。
構造:M構造(鉄筋コンクリート)
保険金額:1,000万円
年間特約保険料:1,890円
もしもの際のことを考えると、年間2,000円弱であれば、「借家人賠償責任補償特約」は付帯しておくべきでしょう。
7.不動産会社にすすめられる火災保険には要注意!
賃貸のマンションやアパートを借りる際に不動産会社から火災保険の加入を勧められることがあると思います。その火災保険は補償内容が妥当かを確認したうえで契約されることをお勧めします。
私も賃貸物件に入居する際に不動産会社から火災保険の見積もりを提示された経験があるのですが、非常に保険料が高いものでした。家財の保険金額は、それぞれの入居者に合わせたものではなく、全ての入居者に対して同じ保険金額で見積もりを提示しているように思います。実際、家族構成や家財の内容などを不動産会社に聞かれることはありませんでした。
火災保険を契約する際には、保険会社の家族構成による家財の保険金額等を参考にしながら、ご自分にあったプランでご加入ください。例えば、日新火災のお部屋をかりるときの保険であれば、年間保険料4,000円から賃貸住宅向けの火災保険に加入可能です。
尚、賃貸住宅向けの火災保険に加入する際は、下記記事も参考にして頂ければと思います。
『賃貸住宅向けの火災保険はお得?』
まとめ
賃貸物件に住む場合、大した家財を持っていないからと火災保険に加入しない人もいますが、火災を起こした場合、大家さんに部屋を原状回復して返す義務がありますので、火災保険に加入し、特約として「借家人賠償責任補償特約」を付帯することをお勧めします。
つまり、賃貸マンションや賃貸アパートに入居する際に火災保険に加入する目的は、家財の補償はもちろんですが、火災等を起こしたしまった場合の大家さんに対する賠償責任を補償するためとお考えください。
最終更新日:2019年4月26日
No.222