会社の事務所や店舗として使用している建物は地震保険の対象にできるのかというご質問を頂くことが多いのですが、実は、地震保険の対象にはできません。
つまり、会社の事務所や店舗として使用している建物については、地震保険に加入することはできません。
今回は、意外と勘違いが多い、地震保険の対象とならないものについて解説したいと思います。地震保険の補償対象となるもの、ならないものをご理解頂ければと思います。
1.地震保険の対象とならないもの
店舗や事務所建物
店舗や事務所のみに使用されている建物については地震保険の対象になりません。地震保険の対象となるのは、原則、居住用の建物と家財(生活用動産)です。
但し、店舗等に住居部分がある併用住宅については、地震保険の対象とすることができます。
事業用の建物や工場、店舗等に対する地震・噴火・津波による損害をカバーするには、企業向けの火災保険に「地震拡張担保特約」もしくは「地震危険担保特約」を契約する必要があります。
企業向けの地震保険(地震拡張担保特約・地震危険担保特約)は保険料が高く、特に中小企業にとっては負担が重いので、加入率は非常に低い状態で1割程度のようです。
地震災害は巨額の保険金支払をもたらす可能性があり、民間損害保険会社の支払能力には限度があるので、地震保険では保険責任の大半を政府が再保険により引受けています。
一方、企業向けの地震保険(地震拡張担保特約・地震危険担保特約)は家計向けの地震保険のように政府は関与していないため、保険料が高くなります。
設備・什器等
業務用の設備・什器(じゅうき)や商品・製品は地震保険の対象外です。
また、併用住宅については、地震保険の対象ですが、併用住宅に収容される業務用の設備・什器(じゅうき)や商品・製品についても地震保険の対象外です。
例えば、1Fが飲食店で2Fが住居ような店舗併用住宅の場合、建物や建物内の生活用動産(テレビ、タンス等)は地震保険の対象となります。しかし、飲食店で使用している業務用のコンロや冷蔵庫等の設備・什器(じゅうき)は地震保険の対象にはなりません。
業務用の設備・什器(じゅうき)や商品・製品等についても地震・噴火・津波による損害をカバーするためには、企業向けの火災保険に「地震拡張担保特約」もしくは「地震危険担保特約」を契約する必要があります。
明記物件
火災保険で明記物件とされている下記のものは地震保険の対象外です。
- 1個または1組が30万円を超えるような貴金属、宝石、書画、骨董、彫刻物その他の美術品
- 稿本(本などの原稿)、設計図、図案、証書、帳簿など
火災保険の明記物件の詳細については下記記事をご参照ください。
『宝石や骨董品は明記が必要!?』
通貨等
通貨、有価証券、預貯金証書、印紙、切手その他これらに類するものについては地震保険の対象外です。
自動車
自動車(自動三輪車および自動二輪車を含む)については、地震保険の対象外です。但し、家財を補償の対象としている場合、総排気量が125cc以下の原動機付自転車(原付)や自転車は補償の対象となります。
自動車について地震・噴火・津波による損害をカバーするためには、自動車保険(車両保険)に『地震・噴火・津波車両全損時一時金特約』等を付帯する必要があります。
ただし、「地震・噴火・津波車両全損時一時金特約」を付加しても、支払われる保険金は契約の対象車両が地震・噴火・津波によって全損になった場合に50万円(保険金額が50万円未満の場合、保険金額)です。
支払われる保険金は実際の損害に対する修理費用ではないこと、また全損の場合のみ保険金が支払われる点に注意が必要です。
「地震・噴火・津波危険車両全損時一時金特約」は、車両保険のように契約車両の損害を修理したり、全損の場合には、契約車両と同等の車に買い替えるための補償ではない点に注意が必要です。
「地震・噴火・津波車両全損時一時金特約」の詳細については、下記記事をご参照ください。
『地震、噴火、津波の損害は車両保険では補償されない!?』
尚、一部の保険会社では、地震・噴火・津波の損害について実際の損害を補償する特約を取扱っています。
下記2社の特約であれば、「地震・噴火・津波車両全損時一時金特約」とは違い、全損の場合は車両保険金額が補償され、全損でない場合には、車両保険金額を限度に実施の修理費用が補償されます。
楽天損保(旧朝日火災)
『車両地震特約』
チャブ保険(Chubb)
『車両地震保険』
2.地震保険の補償対象外となる損害
地震・噴火・津波による下記のような損害については、地震保険の補償対象外となりますので、ご注意ください。
- 門・塀・垣のみに生じた損害
- 地震等の際における保険の対象の紛失・盗難によって生じた損害
- 地震等が発生した日の翌日から起算して10日を経過した後に生じた損害等
3.地震保険の趣旨
なぜ、地震保険の対象は居住用建物(住居のみに使用される建物および併用住宅(店舗等に住居部分がある住宅))やその建物に収容されている家財(生活用動産)のみに限定されているのでしょうか?なぜ、事業用の建物や設備什器が対象外となっているのでしょうか?
その理由は、地震保険の目的が、「被災者の生活の安定に寄与すること」だからです。そのため、保険の対象とできるものが居住用建物(住居のみに使用される建物および併用住宅)および家財(生活用動産)に限られています。
また、「地震保険に関する法律」の趣旨が、被災物件の完全復旧ではなく、被災者の 生活の安定に寄与することを目的としているので、地震保険の保険金額は、火災保険の保険金額の50%かつ、建物が5,000万円まで、家財が1,000万円までとなっています。(巨大地震が発生した場合でも保険金の支払いに支障をきたさない範囲内での引き受けとするためという理由もあります)
『地震保険について抑えておくべき5つのポイント』
地震保険に関する法律 第1条(目的)
この法律は、保険会社等が負う地震保険責任を政府が再保険することにより、地震保険の 普及を図り、もつて地震等による被災者の生活の安定に寄与することを目的とする。
まとめ
地震保険には上記のように補償の対象外となるもの、補償対象外となる損害があります。ご加入の際には補償の対象、補償内容等に勘違いがないようにご注意ください。
最終更新日:2019年7月2日
No.194