交通事故に遭うことは日常生活でほとんどないので、突然、そのような状況に遭遇すると、どのように対応すればいいのか戸惑ってしまう方が多いと思います。
交通事故は、加害者になった場合もそうですが、被害者になった場合もどのように対応するかをある程度知っておくことが重要です。
対応方法を知らないと、被害者でありながら、十分な補償を受けられない可能性もあります。
では、追突事故の被害に遭った際にはどのような流れで対応すればいいのでしょうか?また、加害者側の自動車保険でどのような補償をしてもらえるのでしょうか?
今回は、追突事故の被害者になった場合の下記ポイントについて解説します。
- 追突事故の被害者となった場合の対応の流れ
- 交通事故に健康保険(公的医療保険)や労災保険は使えるのか?
- 相手(加害者)の自動車保険からどのような補償があるのか?
- 相手(加害者)が無保険だった場合には補償はないのか?
1.警察へ必ず事故の連絡をする
交通事故に遭った場合には、ケガ人の救護や二次災害の防止の後に110番です。警察に必ず事故の届けをするようにしてください。
どんなに車の損害が軽くても、ケガの状況が軽くても警察への連絡は必須です。最初は軽い損害だと思っていても、後々、賠償してもらいたい損害が発覚することもあります。ケガなどは、事故直後は痛みが軽くても、時間の経過とともに痛みが増す場合もあります。
警察へ事故の届けがなければ、事故後に明らかになった損害に対して自動車保険からの補償が受けられなくなる可能性があります。
交通事故時の対応マニュアル
なお、交通事故時の対応の流れをマニュアルとしてまとめると下記の通りです。
1.被害者(けが人)の救護
まずはケガ人の救護が最優先です。救急車を呼ぶ等、適切な対応が必要です。
2.二次災害の防止
二次災害の防止も重要です。車両等は移動可能であれば、後続車等に追突されないように安全な場所へ移動してください。事故当事者も二次災害に巻き込まれないように気を付けることが重要です。
3.警察への連絡
どんなに軽い事故であっても、また相手側が警察に連絡する必要がないというような発言をしたとしても、警察には必ず連絡をして下さい。
自動車事故による保険金の請求の際は、原則として自動車安全運転センターの発行する交通事故証明書の提出が必要です。交通事故証明書は、警察に届け出ないと発行されませんのでご注意ください。
4.事故相手の確認
加害者になった場合でも被害者になった場合でも相手の確認は重要です。免許証等で相手の名前、住所等を確認し、相手車の登録番号も記録しておきます。
5.目撃者の確認
目撃者がいる場合は、氏名、住所等を確認します。
6.代理店、保険会社へ事故報告の連絡
過失割合(責任割合)などの点で不利になる可能性があるので、自動車事故が起きたらまず保険会社や代理店に電話する必要があると思っている方がいますが、実際には代理店や保険会社への連絡は一番最後で問題ありません。
夜間の事故の場合、代理店に電話がつながらない可能性がありますが、保険会社には24時間365日受け付け可能な事故受付窓口(フリーダイヤル)があります。また、連絡フォームからインターネット経由の事故連絡も可能です。
事故受付の電話番号は保険証券等に記載されているので、車のダッシュボード等に保管しておくと便利です。
少し前までは休日等は事故の受付のみの対応でしたが、今では休日等でも事故相手への連絡や病院・修理工場への連絡、代車の手配などを行い、契約者に対応結果を報告するような即日に初期対応をする保険会社もあります。
なお、セゾン自動車火災保険やソニー損保のように事故現場にALSOKやセコムのスタッフを派遣するサービスを提供している保険会社もあります。
事故現場にスタッフを派遣するサービスや保険会社の事故時の初期対応の詳細については、下記記事をご参照ください。
『事故現場に駆けつけてくれる自動車保険のサービス』
2.事故現場などでの当事者同士の示談はNG
事故現場での当事者間(加害者と被害者)での示談は絶対にしないようにして下さい。当事者間(加害者と被害者)で示談すると自動車保険からの必要な補償が受けられなくなってしまう可能性があります。
書面による示談だけでなく、口頭での示談も有効になってしまうので、注意が必要です。
なお、相手に過失(責任)が100%ある事故では被害者側の保険会社は加害者と示談交渉ができません。そのような状況で使えるのが自動車保険の『弁護士費用特約』です。
事故相手に100%過失がある、もらい事故に対応するためにも弁護士費用特約を自動車保険にセットすることをおすすめします。
『弁護士費用特約の補償内容は保険会社によって異なる!?』
3.健康保険や労災保険を使ってケガを治療する
追突事故に遭った直後は、痛みを感じなくても、時間が経ってから首などに痛みが出ることもあります。病院へは事故後、なるべく早い段階で行くようにしてください。
また、交通事故の治療には健康保険(公的医療保険)は使えないという間違った知識が広がっていますが、交通事故によるケガの治療にも健康保険は使えます。
また、仕事中の事故であれば、労災保険も使えます。
病院や診療所の受付で、「交通事故の場合、健康保険は使えないので、自費での治療になります」と間違った案内をされることがありますが、そんなことはありません。
健康保険を使わずに自費(自由診療)での治療で得をするのは、病院や診療所だけです。自由診療による被害者側のメリットは何もありません。
特に被害者側に過失(責任)がある場合には、健康保険を使わないと受取れる保険金が減る可能性があるというデメリットが発生します。
『交通事故に健康保険や労災保険は使えない!?使うとデメリットがある?』
また、100%被害者となる事故でも、治療時の立替額が大きくなる可能性があるので、健康保険を使った方がいいでしょう。
4.追突事故の被害者に対する自賠責保険・自動車保険の補償とは?
追突事故の被害者に対する補償としては、まず自賠責保険があります。自動車保険は強制加入の自賠責保険があり、まず自賠責保険からの補償があります。自賠責保険の補償額を超えた場合、任意加入である自動車保険からの補償があります。
『自動車保険の仕組み|自賠責保険と任意保険の違いとは?』
強制加入である自賠責保険と、任意加入である自動車保険の追突事故の被害者に対する補償内容は下記の通りです。
・自賠責保険
自賠責保険は対人賠償のみの補償です。対物賠償の補償はありません。
自賠責保険のみの加入の場合、ケガや死亡などに対する対人賠償補償しかありません。車の損害などに対する対物賠償補償はありません。
更に下表でも分かる通り、対人の補償も死亡で3,000万円、傷害で120万等、最低限の補償となっています。
自賠責保険の補償内容については下表をご参照下さい。
支払対象 | 支払限度額 | |
---|---|---|
傷害による損害 | 治療関係費(治療費、看護料、諸雑費、通院交通費等)、文書料、休業損害、慰謝料 | 最高120万円 |
後遺障害による損害 | 逸失利益、慰謝料等 | ◆神経系統の機能や精神・胸腹部臓器への著しい障害で、介護を要する傷害 ・常時介護の場合:最高4,000万円 ・随時介護の場合:最高3,000万円◆上記以外の後遺障害 第1級:3,000万円~第14級:75万円 |
死亡による損害 | 葬儀費、逸失利益、慰謝料 | 最高3,000万円 |
自賠責保険の補償内容については、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
『自賠責保険を正しく理解していますか?』
・対人賠償責任保険(自動車保険)
上記、自賠責保険の補償額で足りない場合に自動車保険(任意保険)の対人賠償責任保険からの補償があります。
なお、自賠責保険と対人賠償保険は別々で請求する必要はありません。
加害者が任意保険(自動車保険)に加入している場合、自賠責(強制)保険からの保険金と、対人賠償保険(任意保険)からの保険金を、保険会社が一括して支払う一括払制度があります。
よって、加害者の自動車保険(任意保険)への保険金請求のみを行えば、自賠責保険への請求を別途行う必要はありません。加害者側の自動車保険の保険会社が自賠責保険の請求を行ってくれますので、保険金請求時に自賠責保険のことを意識する必要はありません。
自賠責保険と対人賠償保険の違いについては、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
『対人賠償保険とは?自賠責保険との違いは?』
・対物賠償責任保険(自動車保険)
上記の通り、自賠責保険に対物の補償はありません。よって、追突事故に遭い、車に損害がある場合には、自動車保険(任意保険)の対物賠償保険で修理費用などを補償してもらうことになります。
5.追突事故の加害者が無保険だった場合はどうなる?
さて、加害者である事故相手が無保険だった場合にはどのようになるのでしょうか?一切補償はないのでしょうか?
加害者側が、自賠責保険にさえ加入していなかった場合と、自賠責保険には加入しているが、自動車保険(任意保険)に加入していなかった場合について解説します。
・加害者が自賠責保険に未加入の場合、政府保障事業で保障される
加害者側が自賠責保険にも加入していなかった場合には、政府保障事業があります。政府保障事業とは、ひき逃げ事故や無保険(共済)の自動車、泥棒運転(盗難車)による事故により、自賠責保険または自賠責共済からの保険金の支払いを受けられない被害者を救済するための制度です。
政府保障事業によるてん補金は、自賠責保険(共済)の支払基準に準じて支払われます。
政府保障事業については、下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
『ひき逃げや無保険車の事故は保障される?(政府保障事業とは?)』
・被害者の自動車保険の人身傷害保険
相手が無保険だった場合や自賠責保険にしか加入していないケースで、政府保障事業や自賠責保険の保障(補償)額を超える治療費などがかかった場合には、被害者が加入している自動車保険の人身傷害保険で補償されます。
人身傷害保険とは、自動車事故により、記名被保険者およびその家族や被保険自動車(契約の車)に搭乗中の人が死傷した場合、その過失割合(責任割合)にかかわらず、被る損害の実際の損害額(治療費、休業損害、逸失利益、及び精神的損害等)に対して保険金が支払われる補償です。
過失(責任)割合に関係なく、保険金が支払われますので、相手に100%過失(責任)がある追突事故でも人身傷害保険から治療費などの保険金が受け取れます。
『人身傷害保険とは?押さえておくべき6つのポイント』
人身傷害保険で支払われる保険金をイメージ図で表すと以下のようになります。
(出典:セゾン自動車火災保険HP)
・被害者の自動車保険の車両保険
追突事故の加害者が自動車保険(任意保険)に加入していなかった場合、車の損害である対物の補償はありません。
そのような場合には、被害者が加入している自動車保険に車両保険がセットされていれば、車両保険で修理費などが補償されます。追突の被害事故で車両保険を使っても、次年度の契約の等級が3つ下がる3等級ダウン事故となります。
等級が下がれば、割引率が下がり、次年度の保険料は上がります。しかし、車両保険に「車両無過失事故に関する特約」をセットしていれば、ノーカウント事故にできる可能性があります。
車両保険に「車両無過失事故に関する特約」をセットしていて、下記の条件を満たしていた場合、ノーカウント事故となり、次年度の等級が下がることはありません。
【「車両無過失事故に関する特約」でノーカウント事故になる条件】
- 契約の車以外の自動車(原付含む)との接触または衝突事故(車対車事故)であること。
- 契約の車の運転者にその事故に関する責任がないこと。
- 相手自動車の情報(登録番号)と相手自動車の運転者の情報(住所・氏名)が確認できること。
「車両無過失事故に関する特約」は、保険会社によっては、車両保険に自動セットされている場合と、オプションの場合がありますので、注意が必要です。
例えば、損保ジャパン日本興亜の「THEクルマの保険」や三井住友海上の「GKクルマの保険・家庭用(充実プラン)」、セゾン自動車火災の「おとなの自動車保険」には同特約が車両保険に自動付帯(セット)されています。
一方、東京海上日動の「トータルアシスト自動車保険」は、同特約はオプション扱いで、契約時に付加(セット)する必要がありますが、特約保険料は年間1,000円程度です(等級等の条件により特約保険料は異なります)。
「車両無過失事故に関する特約」に関しては下記記事で詳細に解説していますので、ご参照ください。
『当て逃げの修理代に車両保険は適用される?等級は下がる?』
まとめ
追突事故の被害者になった場合の対応の流れや、補償(保障)の内容についてご理解いただけたでしょうか?
100%被害者の交通事故に遭って、相手から補償もないという状況は踏んだり蹴ったりです。そのようなことにならないように、ご自身の自動車保険に「弁護士費用特約」や「車両無過失事故に関する特約」などをセットされてはいかがでしょうか。
追突事故の被害者になった場合のポイントをまとめると、下記のようになります。
- 事故後は110番し、必ず警察に事故の報告をする
- 当事者間での示談は絶対にしない
- ケガや痛みがある場合には、健康保険(公的医療保険)や労災保険を使って治療
- 加害者が無保険だった場合に対する備えを自身の自動車保険でしておく
これだけ自動車が普及をしていて、色々な人が車を運転しているので、保険に未加入で公道を走っている人もゼロではありません。自分の身を守るためにもご自身の自動車保険の備えも必要な時代といえます。
No.355