国土交通省は車検切れの車を路上で素早く確認するシステムを使って取り締まりを行っています。持ち運び可能なカメラでナンバーを読み取り、瞬時にデータと照合して車検切れかを判別、係員が警察と連携してその場で取り締まる仕組みで、2018年9月から本格運用を開始しています。
なぜ、車検切れの車を取り締まるのでしょうか。実は、車検切れの状態で車を運転すると、大きな代償を支払うことになる可能性があります。
車検切れの車やバイクを運転すると法律上の罰金や罰則の問題だけでなく、事故の際の被害者への補償(任意保険(自動車保険))でも問題が発生します。今回は、車検切れの車やバイクを運転すると、どのような問題が発生するかについて解説します。
また、車検切れの車による事故で被害者になってしまった場合に備える方法についても解説します。
1.車検切れの車の台数
国交省のデータベースによると、車検登録が必要な車は、約8,000万台(15年3月末時点、軽自動車・二輪車含む)で、その内、期限内に車検も受けず、廃車手続きもされていない車が約300万台あるそうです。
そのほとんどが乗らずに放置されているようですが、国土交通省の調べでは、10万台~20万台前後が車検切れのまま道路を走っているとのことです。
車検切れということは、自賠責保険(共済)にも加入していない可能性が高いと思われます。
常識的に考えると、車検切れの状態で車を運転するということは信じ難いことですが、実際に車検切れの車を運転するとどのような問題があるのでしょうか。
2.車検切れの車を運転した際の罰則・罰金
まず、車検切れの車を運転した場合、道路運送車両法違反となり、6月以下の懲役か30万円以下の罰金が課せられます。
また、車検切れということは、自賠責保険(共済)にも未加入の可能性が非常に高いと思われます。
自賠責保険(共済)は原動機付自転車(原付)を含むすべての自動車に加入が義務付けられている強制保険ですので、自賠責保険(共済)に未加入の状態で運行した場合、1年以下の懲役または50万円以下の罰金となります。
自賠責保険(共済)の証明書を所持していなかっただけでも30万円以下の罰金が科せられます。
更に自賠責保険(共済)未加入での運転は交通違反となり違反点数6点が付され、即座に免許停止処分となります。
車検切れの車を運転した場合、事故を起こしていなくても上記のような罰則・罰金があります。「車検を受けるのを忘れていた」では済まされません。
3.車検切れ、自賠責保険未加入の車で事故をした場合の被害者への補償は?
車検切れかつ、自賠責保険(共済)に未加入の状態で事故を起こした場合の被害者への補償はどうなるのでしょうか?
対人事故(被害者のケガや死亡など)に関しては、政府保障事業があり、被害者に対して自賠責保険(共済)と同様の保障があります。
政府保障事業とは、ひき逃げ事故や無保険(共済)の自動車による事故により、自賠責保険または自賠責共済からの保険金の支払いを受けられない被害者を救済するための制度です。
政府保障事業の詳細については、下記記事をご参照下さい。
『ひき逃げや無保険車の事故は保障される?』
4.車検切れ、自賠責保険未加入の車との事故で被害者になった場合の備えとは?
車検切れ、自賠責保険に未加入の車が世の中を走っているということは、そのような車との事故で被害者になる可能性はゼロではありません。
車検切れ、自賠責保険未加入の車との事故で被害者になってしまった場合に対する備えについて解説します。
・身体(ケガなど)に対する損害への備え
車検切れ、自賠責保険未加入の車との事故で被害者となり、ケガなどをした場合、被害者の方が契約している自動車保険の人身傷害保険で補償されます。
人身傷害保険が「契約車両に搭乗中のみ補償」に限定されている場合には、契約車両に乗っている場合の無保険車との事故が補償されます。
また、人身傷害保険を「契約車両に搭乗中のみ補償」に限定せず、車外での事故も補償するようにしておけば、歩行中や自転車搭乗中等に無保険車と事故に遭った場合も補償の対象になります。
『人身傷害保険とは?押さえておくべき6つのポイント』
人身傷害保険のみの請求であれば、等級に影響のない「ノーカウント事故」ですので、自動車保険の等級が下がることはなく、保険料は上がりません。
『自動車保険の等級制度(割引)についてよくある質問』
・車の損害に対する備え
車検切れ、無保険の状態の車に追突され、被害者の車に損害がある場合、全額を加害者が自己負担で修理することになります。事故の加害者に賠償する能力がない場合には、残念ながら被害者自身の負担で修理することになってしまいます。
ただし、被害者の自動車保険に車両保険がセットされていれば、被害者の車両保険で車の修理費等が補償されます。一般的には、被害事故でも車両保険で車を修理した場合、等級が3つ下がる「3等級ダウン事故」に該当します。
しかし、加害者が特定できていて、「車両無過失事故に関する特約」がセットされていれば、車両保険を使用しても次契約の等級に影響のない「ノーカウント事故」となり、等級は下がらず、保険料が上がることはありません。
『当て逃げされても3等級ダウン!?』
・住宅や店舗の損害に対する備え
車検切れ、無保険の状態の車が住宅や店舗に突っ込んで、住宅や店舗に損害が発生した場合、全額を加害者が自己負担で修理することになります。事故の加害者に賠償する能力がない場合には、残念ながら被害者自身の負担で修理することになってしまいます。
ただし、住宅や店舗の損害に対しては、被害者が加入している火災保険で修理が可能です。火災保険の補償内容については、下記記事でご確認下さい。
『火災保険を契約する際に抑えておくべき8つのポイント』
4.車検切れの車で事故を起こしても任意保険(自動車保険)で補償される?
そもそも車検切れの車で事故を起こした場合、任意保険(自動車保険)で補償されるのでしょうか?
対人賠償保険や対物賠償保険は車検切れの車で事故を起こした場合、免責(補償対象外)となるとは約款(やっかん)には書かれていません。つまり、車検切れの車で事故を起こしても任意保険(自動車保険)に加入していれば、対人賠償保険・対物賠償保険は補償対象となります。
であれば、車検が切れていて自賠責保険(共済)に加入していなくても、自動車保険(任意保険)に加入していれば大丈夫では?とお考えの方も多いと思います。
確かに自賠責保険は、下記のような被害者を救済するための最低限の補償であり、自動車保険(任意保険)がないと補償が足りません。
【自賠責保険の補償内容】
死亡による損害の場合:3,000万円
後遺障害による損害の場合:4,000万円
ケガによる損害の場合:120万円
自賠責保険(共済)の補償内容については、下記記事をご参照ください。
『自賠責保険を正しく理解していますか?』
一方、自動車保険(任意保険)は、対人・対物賠償責任保険は無制限が当たり前。ということは、自賠責保険(共済)に加入しなくても自動車保険があれば事足りるのでは?と思ってしまうかもしれません。
しかし、自動車保険(任意保険)に加入していても、自賠責保険に加入していないと下記のような問題が発生します。
1)任意保険は自賠責保険までの補償は免責(補償対象外)
実は、対人事故で自動車保険(任意保険)から保険金が支払われるのは、あくまでも自賠責保険(共済)の補償額を超えた部分だけです。
つまり、自賠責保険の契約がないと、自賠責保険の補償部分が自動車保険の対人賠償責任保険では免責(補償対象外)なので、自己負担となります。
2)示談交渉サービスが受けられない
更に、自賠責保険(共済)に未加入で、自動車事故の対人損害額が自賠責保険の補償額を超えない場合、原則として、保険会社は事故の相手側との示談交渉をしてくれません。
保険会社によっては、自賠責保険に加入していない場合の人身事故については、示談交渉しないとしている会社もあります。
つまり、自動車保険(任意保険)に加入していても自賠責保険に未加入の場合、自賠責保険の補償部分までの自己負担額が発生するとともに、事故の相手側との示談交渉も自分で行わなければならない可能性があります。
『自賠責保険に加入していないと発生する4つの問題点』
5.車検のない原付等の自賠責保険未加入には特に注意が必要
さて、ここまで車検が必要な車の車検切れの問題についてご紹介してきましたが、原付や250ccまでの車検のないバイクについては、自賠責切れに特に注意が必要です。車検が無い原付や250ccまでのバイクは、自賠責保険の加入や継続を失念する可能性が高くなります。
バイク保険に加入していても自賠責保険に加入していなければ、自賠責までの補償は免責(補償対象外)という問題が発生します。
また、自動車保険の特約であるファミリーバイク特約を付加(セット)していても所有するバイク、原付が自賠責保険(共済)に加入していなければ、自賠責までの補償は免責(補償対象外)という問題が発生します。
『ファミリーバイク特約について確認すべき9つのポイント』
まとめ
車検切れや自賠責切れは、上記のように法律上罰せられるだけでなく、実際に事故が起きた際の任意保険(自動車保険)の補償面でも大きな問題が発生する可能性があります。
車検切れ、自賠責切れにはご注意ください。
また、車検切れ、自賠責保険未加入の車が公道を走っているという事実がある以上、そのような車と事故に遭う可能性はゼロではありません。車検切れ、自賠責保険未加入の車との事故に備えておく必要もあります。
最終更新日:2018年11月17日
No.276