自動車メーカーだけでなく、Googleなども開発を進めていて注目が集まる自動運転技術ですが、「自動運転技術が実用化されると事故の責任は誰にあるのでしょうか?」や「自動運転になると自動車保険は不要になるのでしょうか?」というご質問をよく頂きます。
安全運転支援システムが普及すると、自動車保険は不要になるのでしょうか?自動車保険が不要になるとしたら、それはいつごろでしょうか?
今回は、自動運転と自動車保険の関係について考えてみたいと思います。
1.自動運転技術のレベルとは?
一口に自動運転技術といっていますが、実は、自動運転にも6つの区分(レベル)があります。6つのレベルの分類は下記の通りです。
・レベル0
システムが介入することなく、全ての操作をドライバーが行うのがレベル0です。ハンドルやアクセル、ブレーキなどの加減速について、全てドライバーの判断で行います。
・レベル1(運転支援)
ハンドル、アクセル、ブレーキ操作のいずれかをサポートする運転支援システムがレベル1です。
ハンドル操作とアクセル・ブレーキの加減速操作が連携していない運転支援システムがレベル1と呼ばれます。
自動ブレーキや車間距離の維持などがレベル1に該当します。
・レベル2(運転支援)
ハンドル操作とアクセル・ブレーキの加減速を連携して運転を支援するシステムがレベル2です。
高速道路上での渋滞時に先行車に追従するシステムがレベル2に該当します。レベル2の安全運転支援技術は、いくつかの自動車メーカで市販されている技術です。
・レベル3(自動運転)
高速道路などの特定の場所で、全ての運転操作が自動化されるのが、レベル3です。
ドライバーは運転から解放されますが、緊急時や自動運転システムが作動困難になった場合には、適切な対応が求められます。よって、ドライバーは運転席に座っている必要があります。
・レベル4(自動運転)
高速道路など特定の場所で全ての操作が完全に自動化されるのがレベル4です
特定の場所での自動運転はレベル3と同じですが、レベル3と違いレベル4では緊急時にもドライバーに頼ることなく、自動運転システムが対応します。
レベル4では、自動運転システムが作動している限り、ドライバーの操作は不要となります。
・レベル5(完全自動運転)
全ての運転操作が完全自動化されるのがレベル5です。
常に自動運転システムが車の操作を行うので、ハンドルやアクセルが不要となります。
レベル5では、乗車する人間は、運転操作から解放されるので、車内空間の設計自由度が格段に上がります。
上記の内容をまとめると、下表の通りになります。
自動運転レベル | 概要 | 責任者 | |
---|---|---|---|
レベル1 | 運転支援 | アクセル、ブレーキ、ハンドル操作のいずれかをシステムが行う | ドライバー |
レベル2 | 運転支援 | 複数の操作を同時にシステムが行う | |
レベル3 | 自動運転 | 全ての操作をシステムが行い、緊急時にドライバーが対応する | システム (自動走行 モード中) |
レベル4 | 自動運転 | 特定の場所で、ドライバーが全く関与しない完全な自動運転 | システム |
レベル5 | 完全自動運転 | ドライバーが全く関与しない完全な自動運転 | システム |
なお、6段階のうち、レベル3〜5が「自動運転」と定義されています。レベル1・レベル2までは自動運転ではなく、運転支援技術と呼ばれています。
運転支援技術は、予期せぬ事故を軽減または回避するための技術で、衝突などを自動で回避するものではありません。運転支援システムには限界があり、道路状況や天候によっては作動しない場合があります。よって、レベル1・レベル2の運転支援システムを過信することは危険です。
2.自動運転技術によって自動車保険は不要になる?
実際、自動運転技術がどのレベルになると自動車保険は不要になると考えられるのでしょうか。
日本損害保険協会が2016年6月に公表した「自動運転の法的課題について(出典:日本損害保険協会)」によると、レベル2、3の自動運転については、現行法に基づく損害賠償責任の考え方が適用可能としています。よって、レベル3までについては、自動車保険は必要と考えられます。
一方、レベル4の自動運転については、従来の自動車とは全く別のものととらえ、自動車の安全基準、利用者の義務、免許制度、刑事責任のあり方など自動車関連の法令等を抜本的に見直したうえでの議論が必要としています。
今後の自動運転技術のレベルが上がり、レベル4まで到達すれば、自動車保険が不要という日がくる可能性がありますが、今後は事故が起きた際に誰に責任があるのかを明確にする必要があります。
・自動運転中の事故を補償する特約
自動運転技術が進むと、自動車事故が誰の責任で起きたかを特定するのに時間がかかる可能性があります。車の製造業者やソフトウェア事業者なのかなど、事故責任の所在が明確にならず、事故の被害者への賠償が遅れることも想定されます。
事故の被害者が長期間救済されない事態を避けるため、大手の損害保険会社などでは自動運転中の事故を自動車保険の補償対象に加える特約を提供しています。
例えば、東京海上日動火災保険は2017年4月から、「被害者救済費用等補償特約」を無料で提供しています。
「被害者救済費用等補償特約」とは、契約自動車の欠陥や不正アクセス等によって人身事故または物損事故が発生し、被保険者(補償の対象者)に法律上の損害賠償責任がないと認められた場合に保険金が支払われる特約です。
ドライバー保険を除く、対人賠償保険または対物賠償保険が付帯(セット)された自動車保険契約に自動セットされます。
3.自動車保険はいつ不要になる?
自動車保険が完全に不要になる日が来るかは今後の議論によると思いますが、車の運転は目的地に着くまでの手段であると考える人がいる一方、車の運転自体が目的という人もいます。
自動運転車が市場化されてもマニュアルモードがあり、運転者自ら運転することが可能な場合には、自動車保険は不要にはならず、必要でしょう。
自動運転以外の車が走行禁止にならない限り、完全に自動車保険が不要という状況にはならないと思います。自動運転以外の車は一切走行していないという時代が来るのはまだ先の話ではないでしょうか。そう考えると自動車保険は当分の間必要とされる商品だと思います。
4.自動運転技術によって自動車保険料は安くなる?
自動車保険が不要になるかについては、今後議論が必要となりますが、その前に自動車保険が安くなる可能性はあります。現在はほとんどなくなってしまった安全装置割引ですが、自動ブレーキに関しての割引が導入されています。
『自動車保険の安全装置割引は「自動ブレーキ割引(ASV割引)」のみ?』
仮に、現在の運転支援システムが普及し、事故の軽減に寄与することが実証されれば、更に割引率の高い自動運転技術割引のような割引が導入される可能性があります。自動運転技術が搭載された自動車を所有している場合は、事故の可能性が下がるでしょうから、その分、自動車保険料も安くなる可能性があります。
但し、自動車運転の車が普及すると、自動運転技術に必要になる各種センサーが自動車のバンパー等に設置され、事故を起こした際の修理費が高額になることが予想されます。
自動運転車とそうでない車が混在している間は、事故件数は減少してもゼロにはなりません。事故件数が減少しても事故1件あたりの保険金支払額が高額になるでしょう。そうなると、自動車保険全体が高くなる可能性があるので、自動運転技術割引が導入されても現状に比べて保険料が大きく下がらない可能性もあります。
現状でも自動車は高性能化し、事故の際の修理費は高くなっています。実際、東京海上日動は、2015年10月の自動車保険改定で、「対物事故の保険金支払件数は減少したが、1件あたりの保険金支払額が増え、全体として、対物賠償責任保険の支払保険金が増加した」という理由で、対物賠償責任保険の保険料を引き上げました。
まとめ
レベル4の自動運転技術が市販化されても当分の間は自動運転車とそうでない車が混在することになります。その段階では、事故の件数は減少しても全くなくなることはありません。
全ての車が自動運転になれば、劇的に事故の件数は減るでしょう。その時に自動車保険が必要か不要かの結論はまだ出ていませんが、今後の自動運転技術の進歩とともに自動車保険の契約形態は大きく変わっていく可能性が非常に高いでしょう。
No.