自動車保険は、「対人賠償保険」や「対物賠償保険」、「人身傷害保険」、「車両保険」などがセットになった商品です。
その中で非常に重要になる補償の1つが対物賠償保険です。では、対物賠償保険とは、どのような補償で、誰を補償をする保険なのでしょうか?
対物賠償保険は、自動車保険の中で非常に重要な補償の1つのなので、契約時に注意すべき点がいくつかあります。例えば、対物賠償保険の補償額(保険金額)を保険料を安くするために無制限にしない方もいますが、無制限にしていないと発生するデメリットがあるなどです。
そこで今回は、対物賠償保険の下記ポイントについて解説したいと思います。
- 物賠償保険の保険金額を無制限にしない場合のデメリットとは?
- 対物賠償保険「無制限」の意味とは?
- 物損事故を起こすと等級はいくつ下がるのか?
- 物損事故を起こした場合も示談交渉サービスはあるのか?
今回の記事を読めば、対物賠償保険の注意すべきポイントが理解でき、自動車保険の契約時や見積もり時に役立てていただけます。
1.対物賠償保険とは?
対物賠償保険とは、契約の車を運転中の事故などで他人の車や家屋、店舗などの財物に損害を与え、法律上の損害賠償責任を負った場合に保険金が支払われる補償です。
具体的には、下記のような場合に修理費などが対物賠償保険で補償されます。
- 他人の車に追突してしまい、相手の車を壊してしまった場合
- 運転を誤り他人の家屋に突っ込み、他人の家屋を壊してしまった場合
- わき見運転をし、ガードレールにぶつかり、破損してしまった場合
なお、対物賠償保険は上記の通り、他人のモノを壊してしまった場合の法律上の賠償責任を補償します。「自分の家に誤って車をぶつけた場合に自動車保険(対物賠償保険)で補償されるか?」というご質問をいただくことがありますが、対物賠償保険ではご自身のモノを壊してしまった場合には補償されませんので、ご注意ください。
2.対物賠償保険は、「直接損害」だけでなく、「間接損害」も補償
対物賠償保険では、下記の「直接損害」だけなく、「間接損害」も補償されます。
・直接損害とは?
直接損害とは、他人の車に追突してしまった場合の相手車の修理費や、電柱にぶつかってしまった場合の電柱の修理費です。つまり直接的な損害です。
・間接損害とは?
間接損害とは、店舗に突っ込んでしまった場合の店舗の休業損害です。
例えば、コンビニに車で突っ込んでしまった場合、店の修理費は直接損害。店の修理中に営業できない期間がある場合の損失(休業損害)は間接損害となります。
交通事故などを起こすと、「直接損害」だけでなく、「間接損害」の賠償額も多額になる可能性がありますが、対物賠償保険は、「直接損害」「間接損害」ともに補償対象となります。
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3.対物賠償保険は補償額は無制限にするべき?
自動車保険の対人賠償責任保険、対物賠償責任保険の保険金額(補償額)は無制限が当たり前となっていますが、稀に対物賠償保険の保険金額(補償額)が無制限でない契約を見かけます。
自動車保険の保険料を安くする狙いで、対物賠償保険の保険金額(補償額)を無制限から1,000万円などに下げる方がいらっしゃいますが、この保険料節約方法は下記3点の理由でおすすめできません。
1)対物事故でも意外に高額な賠償事例がある
自動車で人をはねてしまったら高額な賠償金を請求される可能性があると誰もが考えると思います。しかし、対物の事故でそこまで高額な賠償事例はないのではないか、と考える方も多いと思います。
実は、対物の賠償額も事故によっては高額になる可能性があります。対物事故でも2億円を超えるような賠償事例もあります。
対物賠償保険の保険金額が1,000万円で設定されていれば、対物事故の保険金支払の上限は当然のことながら、1,000万円が限度となります。対物事故で1億円などの1,000万円を超える損害を発生させてしまった場合は、1,000万円を超える部分は、自己負担で賠償する必要があります。
2)対物賠償保険の保険金額を下げても大きな保険料節約にはならない
対物賠償保険の保険金額(補償額)を無制限から1,000万円などに下げると、大きな保険料節約になるようなイメージがありますが、実は大して保険料は安くなりません。
対物賠償の保険金額(補償額)が1,000万円と無制限でどのくらい保険料に差が出るのかを確認すると車種や等級などの条件にもよりますが、そんなに大きな差はなく、年間1,000円にも満たない場合がほとんどです。
3)示談交渉サービスが受けられない可能性あり!?
実は、賠償額が保険金額(補償額)を大きく超えるような場合、保険会社は示談交渉してくれません。
保険会社のパンフレット等には示談交渉ができない場合として下記のような一文があります。
“損害賠償額が明らかに保険金額を超える事故”
つまり、賠償額が保険金額を大きく超える場合は、賠償額と保険金額の差額を自己負担で賠償するとともに、自分で相手方と示談交渉を行う必要が発生します。
『対物賠償責任保険を無制限にしない場合の3つの問題点』
『対物賠償保険の保険金額は「無制限」のみ?』
4.対物賠償保険「無制限」の意味とは?
対物賠償責任保険の保険金額(補償額)を「無制限」で契約している方は多いと思います。
しかし、保険金額(補償額)「無制限」の意味を勘違いされている方が多いようです。対物賠償保険の「無制限」というのは、事故相手の要求に対して保険金を無制限に支払うという意味ではありません。
「無制限」の本当の意味は、法律上の損害賠償責任額を無制限で支払うという意味です。自動車保険の約款には、「被保険者が法律上の損害賠償責任を負担することによって被る損害に対して保険金を支払う」とされています。
つまり、法律上の損害賠償責任額までは、無制限で保険金を支払いますが、契約者(被保険者)が法律上負担すべき損害賠償責任額を超えた請求を事故相手がしてきた場合、保険会社は法律上の損害賠償責任がある部分までしか保険金を支払わないということになります。
対物事故の場合、法律上の賠償責任は、事故相手車などの時価額までとなっています。よって、対物賠償保険の保険金は、相手車などの時価額までしか支払われません。
よって、相手車の年式が古い場合、修理費が時価額を超えることがあり、対物賠償責任保険だけだと時価額までしか保険金が支払われないため、事故の相手とトラブルが発生することがあります。
上記のような場合に役立つのが、対物賠償責任保険にセットできる「対物超過修理費用特約」です。対物超過修理費用特約は上記のようなトラブルになる修理費と時価額の差額に過失割合を乗じた額を支払う特約です。
例えば、相手の車に後ろから追突しまったような過失割合が100:0の事故で、相手の車の時価額が50万円で修理費用が100万円の場合、対物賠償責任保険から支払われる保険金は50万円が上限となります。
対物超過修理費用特約をセットしていれば、時価額と修理費の差額50万円(100万円-50万円)が支払われますので、合計100万円となり修理が可能になります。
『対物超過修理費用も「無制限」が選べる?』
対物超過修理費用特約は、自動車保険にセット必須の特約の1つです。
『自動車保険の必要性が高い特約とは?|プロおすすめの5特約』
なお、「対物超過修理費用特約」は東京海上日動の自動車保険のように対人賠償保険に自動付帯(セット)されている場合と、特約(オプション)として任意でセットできる場合があります。
5.物損事故を起こすと等級は下がる?
物損事故を起こし、対物賠償保険から保険金が支払われれば、次契約の自動車保険の等級は、3つ下がります。また、事故ありの割増引き率が3年間適用されることになり、保険料は大きく上がります。
【3等級ダウン事故の事例】
事故時の等級および割引率 | ⇒ 3等級ダウン事故 |
翌年度の等級及び割引率 |
---|---|---|
17等級(53%割引) |
14等級(31%割引) 事故有係数適用期間3年 |
上記事例の場合、3等級ダウンし、更に事故有係数が3年間適用されることになります。事故有係数が適用されることにより、割引率は22%もダウンします。
現在のノンフリート等級制度では、対物賠償保険を使用すると、次契約の保険料が大きく上がってしまうことになります。よって、賠償額が少額の場合には、対物賠償保険を使用せず、自腹で賠償する方がトータルの負担で考えると小さい場合があります。
保険会社や代理店の担当者に相談すれば、対物賠償保険を使用した場合の試算(次契約以降3年程度)をしてくれますので、対物賠償保険を使用した方がいいか、使用しない方がいいかを検討することができます。
6.物損事故を起こした場合の示談交渉
対物賠償保険も対人賠償保険と同様に示談交渉サービスが付いているので、物損事故を起こした場合も対人事故を起こした場合と同様に、示談交渉は保険会社が行ってくれます。
示談交渉サービスは、全ての保険で提供されているわけではなく、自動車保険や自転車保険、個人賠償責任特約等の一部の保険や特約にセットされているサービスです。
なお、保険会社によっては、示談代行サービスと呼んでいる会社もあります。
対物賠償保険、対人賠償保険ともに示談交渉サービスがついていない自動車保険はないと思います。しかし、上記事例の通り、保険会社が示談交渉しない、示談交渉できないケースも存在します。
自動車保険の示談交渉サービスが受けられないパターンについて下記記事で解説していますので、そのようなことにならないようにお気を付けください。
『自動車保険の示談交渉サービスが受けられない4つのパターン』
まとめ
自動車保険の対物賠償保険についてご理解いただけたでしょうか?
今回の記事のポイントをまとめると、下記の通りです。
- 対物賠償保険の保険金額(補償額)は「無制限」にすべき
- 対物賠償保険に対物超過修理費用特約はセットすべき
- 対物賠償保険の保険金を受け取ると、等級は3つ下がり、保険料が上がる
- 物損事故の場合も、原則、保険会社が示談交渉を行う
自動車保険に加入の際には、対物賠償保険の保険金額(補償額)は、無制限にし、「対物超過修理費用特約」のセットをおすすめします。
なお、対物賠償保険を含む、対人賠償保険や人身傷害保険、車両保険などの補償内容の選び方を下記記事で解説していますので、自動車保険を契約する際の参考にして頂ければと思います。
『自動車保険の補償内容の選び方|おすすめのプランとは?』
No.356