「無保険車との事故で被害者になった場合、自動車保険で補償されるのでしょうか?」と、知り合いが無保険車の車と事故を起こした方からの質問がありました。
自動車保険に加入していない無保険車と事故を起こした場合、事故の相手方に十分な賠償能力が無い場合が多いと思われます。
自動車保険に未加入の無保険車との事故で被害者になった場合に国が保障してくれるような制度はあるのでしょうか?また、無保険車と事故を起こした場合に被害者自らが加入する自動車保険で補償されるのでしょうか?
今回は、無保険車との事故で被害者になった場合の国や自動車保険などの保障(補償)と、無保険車との事故に対する備えについて解説します。
1.無保険車とは?
無保険車とは、自動車保険(任意保険)や自動車共済に加入していない車、または、保険に加入していても補償内容が不十分な自動車をいいます。
具体的には、自動車保険(任意保険)や自賠責保険(強制保険)に加入していない場合や、自動車保険には加入していても対人賠償保険の補償額が「無制限」ではなく、事故の損害額(賠償額)が対人賠償保険の補償額(保険金額)を超える場合も無保険車とされます。
2.無保険車の割合は?
一般社団法人 日本損害保険協会が発表した2014年3月末の「自動車保険 都道府県別加入率」によると、対人賠償保険、対物賠償保険の加入率の全国計はともに73.4%となっています。
上記データには共済のデータが含まれていないので、実際には1割強くらいの車が自動車保険(共済)に加入していない無保険車だと言われています。
また、高齢者が高速道路を逆走するなどの事故があり、社会問題化していますが、高齢者の運転する車が無保険車という事例もあるでしょう。意図的に自動車保険に加入しないわけではなく、満期がきた契約の更新を忘れてしまうというようなことが発生し得る危険性があります。
『自動車保険と高齢者問題』
今後も日本で高齢化が進み、高齢者が車を運転することが増えれば、上記記事の事例のような自動車保険の加入漏れによる無保険車が増える可能性があります。
3.無保険車との事故を保障する政府保障事業
さて、無保険車との事故によってケガをしたり、車が壊れたりした場合、どのような保障があるのでしょうか?
事故の加害者が自動車保険(任意保険)や自動車共済に未加入でも強制加入である自賠責保険(共済)に加入していれば、被害者に対して自賠責保険(共済)から対人の補償があります。
『自動車保険の仕組み|自賠責保険と任意保険の違いとは?』
自動車保険(任意保険)に加入せず、更に自賠責保険(共済)にも加入していない無保険車との事故に遭った場合には、政府保障があります。
政府保障事業は、ひき逃げ事故や無保険(共済)の自動車による事故により、自賠責保険または自賠責共済からの保険金の支払いを受けられない被害者を救済するための制度です。
『政府保障事業とは?|ひき逃げや無保険車との事故が保障される?』
しかし、保障内容は下記の通り自賠責保険(共済)の支払基準と同じで、最低限の保障と考えた方がいいでしょう。
死亡:3,000万円
後遺障害:4,000万円
傷害:120万円
上記のような自賠責保険(共済)の支払基準と同等の政府保障だけでは保障が不足する可能性が十分考えられます。
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4.自動車保険(任意保険)の無保険車傷害特約とは?
事故相手が無保険車である場合の補償として無保険車傷害特約がありますが、無保険車傷害保険から補償を受けるには、被害者の方が自動車保険(任意保険)に加入していることが前提になります。
無保険車傷害特約は、事故相手が無保険車である場合や、当て逃げなどで相手が不明な場合等で相手から十分な損害賠償を受けられない場合に保険金が支払われます。
なお、無保険車傷害保険は死亡・後遺障害が生じてしまった場合に保険金が支払われます。
また、人身傷害保険の補償対象となる場合には、人身傷害保険の支払いが優先されます。しかし、人身傷害保険から保険金の支払いを受けることができない場合や自賠責保険と無保険車傷害保険の保険金額の合計額が、人身傷害保険の保険金額より多い場合は、無保険車傷害保険から保険金が支払われます。
無保険車傷害保険の補償対象者の範囲は以下の通りです。
【無保険車傷害特約の補償対象者の範囲】
①記名被保険者
②記名被保険者の配偶者
③記名被保険者または配偶者の同居の親族
④記名被保険者または配偶者の別居の未婚の子
⑤上記①~④以外で契約の車両に搭乗中の方
多くの保険会社の無保険傷害保険は上記①~④の方については、契約車両に搭乗していない歩行中等の事故も補償します。ただし、後述のように例外もありますので、ご注意ください。
無保険車傷害保険について注意すべき点が以下の通り3点あります。
1)無保険車傷害特約と人身傷害保険の異なる点
無保険車傷害保険は死亡・後遺障害が生じてしまった場合に保険金が支払われます。人身傷害保険のように治療費や休業損害などは支払われません。
また、被害者に過失(責任)がある事故の場合、過失割合分については、保険金が支払われません。一方、人身傷害保険は過失割合に関係なく、保険金が支払われます。
『交通事故の過失割合は誰が決めるのか?』
2)無保険車傷害特約の補償が「搭乗中のみ」の補償の場合あり
保険会社によっては、無保険車傷害特約の補償が契約車両に「搭乗中のみ」補償対象となる場合があり、歩行中や自転車に乗っている際の事故は補償対象外になります。
3)保険会社によって保険金額(補償額)が異なる
無保険車傷害特約の保険金額(補償額)が保険会社によって異なる場合があります。1名につき2億円が限度という保険会社や無制限という保険会社もあります。
尚、無保険車傷害保険のみの支払いであれば、ノーカウント事故となり、次契約の自動車保険の等級が下がることはありません。
『自動車保険等級制度(ノンフリート等級別料率制度)』
5.人身傷害保険の補償を「搭乗中のみ」に限定しない
人身傷害保険の補償を「契約の車に搭乗中のみ」に限定しないことも無保険車との事故の対策になりますが、人身傷害保険についても、被害者の方が自動車保険に加入していることが前提になります。
人身傷害保険を「契約の車に搭乗中のみ」に限定すると、契約の車両に搭乗中の事故のみに補償が限定されます。人身傷害保険を「契約の車に搭乗中のみ」に限定しなければ、歩行中等に無保険車との事故に遭っても人身傷害保険で補償されます。
人身傷害保険は下記の方が補償対象になるので、例えば、配偶者の方、子供等が無保険車との事故に遭った場合にも補償されます。
【人身傷害保険の補償対象者の範囲】
- 記名被保険者
- 記名被保険者の配偶者
- 記名被保険者または配偶者の同居の親族
- 記名被保険者または配偶者の別居の未婚の子
無保険車傷害保険があれば、人身傷害保険を「車内+車外補償」にする必要はないでのはないかと思われるかもしれませんが、人身傷害保険は過失割合に関係なく保険金が支払われる点や、無保険車傷害保険では支払われない、治療費や休業損害等の補償もありますので、人身傷害保険を「車内+車外補償」にしておいた方が安心です。
人身傷害保険の補償内容等の詳細については、下記記事をご参照ください。
『人身傷害保険とは?押さえておくべき6つのポイント』
尚、人身傷害保険のみの使用であれば、ノーカウント事故となり、次契約の自動車保険の等級が下がることはありません。
6.任意保険未加入車との物損事故の修理代は補償される?
無保険車(任意保険未加入車)に後ろから追突された場合等の物損事故(車両の損害)については、どのような対策があるでしょうか。
仮に上記のような事故が発生した場合、加害者である無保険車(任意保険未加入車)のドライバーに損害賠償を請求するのは当然ですが、加害者に賠償する力がなければ、最終的に被害者自身が修理することになってしまいます。
被害者が自動車保険に車両保険をセットしていれば、車両保険から修理代が支払われますが、車両保険を使えば、次契約の等級が3つ下がる3等級ダウン事故になり、保険料が上がります。
対人事故に対しては、上記の通り政府保障がありますが、対物事故(物損事故)に対しては、政府保障はありません。
そのような際に役立つのが、車両保険の「車両無過失事故に関する特約」です(保険会社によって特約名が異なる場合があります)。
「車両無過失事故に関する特約」をセットすれば、相手に100%過失がある事故で、被害者が自身の車両保険を使用しても次契約の等級に影響がありません。つまり、ノーカウント事故となります。
但し、ノーカウント事故となるには、下記の条件を満たしている必要がります。
- 契約の車以外の自動車(原付含む)との接触または衝突事故(車対車事故)であること。
- 契約の車の運転者にその事故に関する責任がないこと。
- 相手自動車の情報(登録番号)と相手自動車の運転者の情報(住所・氏名)が確認できること。
※但し、新車特約、車両全損時修理時特約、車両積載動産特約等の保険金を支払う場合は対象外
保険会社によって「車両無過失事故に関する特約」はオプション扱いの場合と、車両保険に自動的にセットされている場合があるので、注意が必要です。
損保ジャパン日本興亜の「THEクルマの保険」や三井住友海上の「GKクルマの保険・家庭用(充実プラン)」、セゾン自動車火災保険の「おとなの自動車保険」などには、車両保険に自動付帯されています。
一方、東京海上日動の「トータルアシスト自動車保険」は、2018年12月31日までに契約した場合、オプション扱いで特約を付加(セット)する必要があります。2019年1月1日以降の契約については、車両保険に自動セットされます。
「車両無過失事故に関する特約」が車両保険に付帯(セット)されているか気になる方は契約の保険会社又は代理店にお問い合わせください。
7.無保険車との事故で被害者となった場合に役立つ弁護士費用特約
上記のように無保険車のドライバーに賠償する能力が無い最悪のケースでは、被害者が加入している自動車保険を使用するしかありませんが、相手に賠償する能力があるにも関わらず、賠償に応じない場合には、弁護士費用特約が役立ちます。
相手に100%過失(責任)がある事故では、保険会社は相手方と示談交渉することができません。そのような際に役立つのが弁護士費用特約です。
弁護士費用特約とは、自動車事故などの被害事故等に関する相手方への損害賠償請求のために必要な弁護士費用や、弁護士などへの法律相談費用などを保険金として支払う特約です。
『示談交渉サービスが受けられない4つのパターン』
『自動車保険の必要性が高い特約とは?|プロおすすめの5特約』
弁護士費用特約のみの使用も人身傷害保険のみの使用時と同様にノーカウント事故となり、次契約の自動車保険の等級が下がることはありません。
まとめ
恐ろしい話ですが、実際に1割強の車が任意保険(自動車保険)に加入せずに公道を走っているという事実があり、無保険車との事故で被害者となると、十分な賠償金を得られない可能性があります。
無保険車との事故に対してどのような場合でも完全に備えることはできませんが、人身傷害保険を「車内+車外補償」するなど、可能な限りの備えをしておくことも必要でしょう。
また、無保険車と事故を起こしてしまった場合、自動車保険(任意保険)を契約していれば、上記のような補償がある場合があります。無保険車と事故を起こし、相手からの賠償が十分でない場合、自動車保険を契約している代理店や保険会社に補償の有無をお問い合わせください。
最終更新日:2019年1月5日
No.260