「この生命保険は配当があるからお得な保険です」と勧められたことはないでしょうか?配当が出る保険(有配当保険)は本当にお得なのでしょうか?配当が出ない保険(無配当保険)は損なのでしょうか?
今回は、生命保険の配当金の下記ポイントについて解説します。
- 生命保険の配当金とは?
- 生命保険の配当金はどのような仕組みで支払われるのか?
- 生命保険の配当金の受け取り方
- 生命保険の配当金を受け取ると税金が課税される?
- 有配当保険と無配当保険はどちらが「お得」か?
配当金の出る仕組みを知って頂き、有配当保険と無配当保険で迷った際の参考にして頂ければと思います。
1.生命保険の配当金とは?
『生命保険の保険料はどのように計算されている?』でご紹介しましたが、生命保険の保険料は予定死亡率、予定事業費率、予定運用率の3種類の予定基礎率をもとに計算されます。
しかし、生命保険は長期にわたる契約であり、経済環境の変化等によって、実際には必ずしも予定していた死亡者数、運用利回り、事業費になるとは限りません。
予定と実績の差によって生じた損益を集計し、余剰金が生じた場合に契約者に還元するものが契約者配当金です。
生命保険の配当金は、株式の配当金や預貯金の利息とは本質的に性質が異なり、上記の通り保険料の事後精算としての性格があります。
2.配当金の3利源(死差益・費差益・利差益)
生命保険の保険料は3種類の予定基礎率(予定死亡率、予定事業費率、予定運用率)をもとに計算されますが、配当金の原資となる差益についても下記の3種類があります。
・死差益
純保険料のうちの死亡保険などの支払いにあてる死亡保険料部分は、予定死亡率によって定められています。しかし、実際の死亡者が予定死亡率を下回った場合には、余剰金が発生します。これを死差益(しさえき)といい、この余剰金の配当を「死差配当」といいます。
費差益
保険会社の事業費等に充てられる付加保険料は予定事業費率によって定めれています。実際の事業費が予定事業費率を下回った場合には、余剰金が発生します。これを費差益(ひさえき)といい、この余剰金の配当を「費差配当」といいます。
利差益
純保険料の一部の生存保険料は責任準備金として積み立てられ、満期保険金等の支払いが発生するまで運用されます。運用利回りは予定利率によって定められていますが、実際の運用が予定利率を上回った場合、余剰金が発生します。これを利差益(りさえき)といい、この余剰金の配当を「利差配当」といいます。
死差益、費差益、利差益をまとめると下表の通りになります。
予定基礎率 | 実績 | 差益 | 配当金 |
---|---|---|---|
予定死亡率 | 下回る | 死差益 | 死差配当 |
予定事業費率 | 下回る | 費差益 | 費差配当 |
予定利率 | 上回る | 利差益 | 利差配当 |
スポンサーリンク
3.有配当保険の2つのタイプ
配当のある保険は一般的には「3利源配当タイプ」と「利差配当タイプ」に分かれます。
「3利源配当タイプ」
毎年の決算時に保険料算出のために用いる3つの予定率と実際の率との差によって生じる損益を集計し、剰余が生じた場合、配当金として分配するタイプです。配当金を毎年分配する「毎年配当型」が主流となっています。
「利差配当タイプ」
予定利率と実際の運用実績との差によって生じる損益を一定年数ごとに通算し、剰余が発生した場合に配当金として分配するタイプです。5年ごとに通算して剰余が発生した場合、配当金として5年ごとに分配する仕組みの「5年ごと利差配当型」が主流となっています。
また、配当には長期間継続した契約に対して、死亡や満期、解約などの契約消滅時に分配される「特別配当」があります。
4.配当金の受け取り方
配当金の受取り方には以下の4種類の方法があります。原則、契約時に契約者が受け取り方法を選択可能ですが、保険種類によっては受取方法が決まっていて、選択できない場合もあります。
・積立
配当金を受け取らずに保険会社に積み立てておく方法で、所定の利率によって複利運用されます。原則、途中でいつでも引き出すことが可能ですが、一旦、引き出した配当金を再度保険会社に預け入れることはできません。
満期時や死亡、解約の場合には、保険金や解約返戻金と一緒に配当金を受け取ります。
・買増
配当金を一時払の保険料として保険を買い増し、保険金額を増やす方法です。買増を行うと、途中で配当金を引き出すことはできません。
・相殺
配当金を受け取らず、支払う保険料と相殺する方法です。相殺を利用すれば、配当金の分だけ保険料負担が少なくなります。
・現金支払
配当金を現金で受け取る方法です。
6.生命保険の配当金には税金が課税される?
配当金を保険期間中に現金で受け取る場合、所得税も住民税も課税されません。つまり、生命保険の配当金は非課税で受け取れます。
ただし、配当金は非課税ですが、1年間の支払保険料から配当金額が差し引かれるため、年末調整や確定申告の際の保険料控除額は小さくなります。
『生命保険料控除とは?|確定申告や年末調整時の控除申告書の書き方』
配当金を死亡保険金や満期保険金、解約返戻金などと一緒に受け取る場合、死亡保険金や満期保険金、解約返戻金と配当金を合計した額が課税対象となります。
なお、死亡保険金に課税される税金については、契約形態(契約者・被保険者・受取人の関係)により、下表の通り異なります。
税金の種類 | 契約者 | 被保険者 | 受取人 |
---|---|---|---|
相続税(注1 | A(例:夫) | A(例:夫) | B(例:妻) |
贈与税(注2 | B(例:妻) | A(例:夫) | C(例:子) |
所得税(注3 | B(例:妻) | A(例:夫) | B(例:妻) |
(注1 相続税法 第3条1項1号、相続税基本通達5-5-(1)
(注2 所得税法 第34条
(注3 相続税法 第5条1項 相続税施行令 第1条の5、相続税基本通達5-5-(2)
死亡保険金や解約返戻金に課税される税金についての詳細は、下記記事をご参照ください。
『死亡保険金に課税される税金』
『解約返戻金を受け取ると税金がかかる?確定申告が必要?』
7.無配当保険は損?有配当保険は得?
無配当保険とは配当の分配がない仕組みの保険です。配当を支払わないので、予定利率、予定死亡率、予定事業費率について実際の経験値に近いものを用いることによって極力、予定と実績の差が発生しないよう保険料が計算されています。
よって一般的に、有配当保険よりも無配当保険の方が保険料が割安に設定されています。
また、有配当保険でも配当は必ず受け取れるものではありません。銀行の預金金利のように予め支払うことが約束された性質のものではなく、前述の通り保険料の事後精算としての性格があるので、経済情勢等によっては、配当金は全く支払われないという可能性もあります。
有配当保険の配当金は、景気の影響を受けやすく好景気でインフレ傾向の時には配当金が増え、景気が悪くデフレ傾向の時には配当金が減ります。
景気が悪い時には保険料の安い無配当保険、景気が良い時には有配当保険の方が有利といえます。
つまり、いつでも必ず、有配当保険の方が得ということもなければ無配当保険の方が損ということはなく、契約時やその後の経済情勢等によってどちらが得かを判断する必要があります。
まとめ
生命保険の配当金についてご理解頂けたでしょうか?
有配当保険といっても配当の支払いが約束されているわけではありません。また、有配当保険に比べて無配当保険の方が保険料が安く設定されているので、有配当保険の方が「お得」と一概に言い切れるものではありません。
有配当保険と無配当保険のどちらを選択するべきか迷った際には、今回の記事の内容を参考にして頂ければと思います。
最終更新日:2018年12月5日
No.259